以前、「時間旅行」展という展覧会をつくったときに、認知心理学の先生に「子どもと大人では時間の流れが違う」ということを教わりました。大人の私たちも、子どもの頃の夏休みが長かったなーという思い出がありますよね?
その理由はいろいろあるのですが、まず、同じ時間でも、過ごした時間における割合や重みが違うということ。たとえば、1ヵ月は50歳(600ヵ月)にとっては600分の1だけど、10歳(120ヵ月)にとっては120分の1。考えてみると、その違いがわかりますね。
それから、細胞が活性化しているときほど、時間は長くゆっくり感じられ、さらに、新しい経験だけが記憶に刻まれて、過ごした時間をより長く感じるということなのです。ですから、数年しか生きていなくて、細胞分裂を活発に繰り返して、新しいことに毎日出会う成長期の子どもの時間は、大人に比べて、とてつもなく長くて記憶に残るものなのです。
だからこそ、特別な過ごし方を強いられるこの外出自粛期間は、少し不自由であったことも含めて、素敵な記憶、思い出になるような、できれば一生役に立つ、経験や発見をして過ごしてもらえたらと思います。
前置きが長くなりましたが、わたしが小さなころ大好きだったものの中から、おすすめの「あそび」を紹介します。
情報量が多いのに、知的で美しい
安野光雅さんの絵本
まずは、だれにでもおすすめできるのが、『ふしぎなえ』『旅の絵本』『はじめてであうすうがくの絵本』シリーズなど、安野光雅さんの絵本です。
大人と子ども、男女、文系、理系を問わず誰もが魅了される、知的で美しい名作ばかりです。
とにかく情報量が多いので、家族みんなで隅から隅まで一緒に読むもよし、一人でじっと不思議な世界に入り込むもよし。
我が家には多くの安野作品がありましたが、中でもわたしが好きだったのは「もりのえほん」。200匹以上の動物が森の風景に隠し絵として潜んでいる、少し大人っぽい絵本です。
最後の一匹が見つけられなかった翌朝に、一人で早起きして、落ち葉がいっぱいあるページに蟻を見つけ、すごくうれしかったのを覚えています。
物語やお話が好きな子におすすめ
「ごっこあそび」
次は、物語やお話が好きな子におすすめな「ごっこあそび」です。わたしの場合は、「旅人ごっこ」が大好きでした。母が夕ご飯をつくり終えるまで、バナナなど小さなおやつをくれるのですが、それをリュックに入れて、狭い家中を「誰か」になって旅するのです。
トイレや押し入れなど家じゅうのあらゆる扉を、旅先で見つけた家の玄関にみたてて「トントン、今晩泊めてもらえますか?」とか言いながら、当時のアニメで好きだったハイジやルパン三世などを想像し、馬小屋とか屋根裏部屋で過ごさせてもらうというあそびです。
状況設定や主人公の組み合わせはいくらでもあるので、終わりがなく飽きることがありません。わたしが今、子どもだったら、家から出られない状況にあわせて『宇宙兄弟』とか『ワンピース』のキャラにならって、宇宙船とか海賊船での生活を妄想してあそんでいると思います。
多くの経験値をもたらす
アナログのおもちゃ
体を動かしたり、競争や挑戦が好きって子におすすめなのは、身体的な訓練をともなうおもちゃシリーズ。ヨーヨー、けん玉、コマ回しなど、練習しないとうまくならなくて、その技術を競い合うあそび。
これは、集中力と身体のどちらも磨いてくれます。無理強いしても続きませんが、この手の訓練系おもちゃが好きだったら、どんどん、いろんな種類にチャレンジさせるのもいいかもしれません。
競争相手がいると、より楽しめるので、兄弟姉妹がいるならご一緒に、いない場合は、お父さんやお母さんがときどき本気で相手になってあげてください。
このステイホーム期間中は、オンライン勤務や学習が推奨され、あそびの方も、ゲームやアニメ、映画、YouTube鑑賞が盛んですね。
でも、いろんなテクノロジーは進化しても、情報量や経験値、感覚、感性という点で、デジタルはまだまだアナログにまったくかないません。テレビゲームのマリオやスプラトゥーンにそのまま代わるものはないかもしれせんが、ボードゲーム、囲碁、将棋、オセロ、パズルなどはオリジナルがアナログなものが多くあります。
外に出る時間が少ないからこそ、家の中では脳だけでなく、空間と物質の世界で、手を動かし多くの経験値をもたらすアナログ版を、意識的に選ぶことをおすすめします。
今は “特別な” 時間、振り返って
“おもしろかったね” と思えるように
繰り返しになりますが、世界に大きな変化をもたらすかもしれないこの期間は、子どもたちにとっても特別な時間。学校、塾、習い事から解放された不思議な時間の中で、人生の支えになるような経験や特技を身につけて、大人になったときに「あの時間はおもしろかったよね」と思えるようになることを願っています。
日本科学未来館 展示企画担当 キュレーター。アート、テクノロジー、デザインの融合領域を専門として2002年より勤務。2005~2006年から文化庁在外研修員として、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務後、現職。「時間旅行展」「恋愛物語展」「チームラボ展」「GAME ON展」「ディズニー・アート展」「デザインあ展」などを手掛け、シンボル展示「ジオ・コスモス」の開発および、ビョークやジェフミルズとのコラボレーション企画を行うなど、大胆なアート&サイエンスのプロジェクトを推進する。
一方、ロボットの常設展開発や、企画展「工事中!」「メイキング・オブ・東京スカイツリー展」「The 世界一展」など、技術革新、日本のものづくり文化の紹介にも力を注ぐ。
Barbican Center(London)における「AI – More than Human」展でゲストキュレーターを務めた他、Milano Triennale「Broken Nature」展の外部コミッショナーやパリ文化会館における「keisuke kanda +ANREALAGE あの服展」のキュレーションなど、国内外のミュージアムにおいて企画やアドバイザーも務める。
・日本科学未来館:https://www.miraikan.jst.go.jp
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