デコボーカルさんのアニメーションで
「RainMan」に込めた普遍的な思いを伝える
ー andropさんとデコボーカルさんの出会いは、今回の「RainMan」のミュージックビデオ制作でしょうか? お互いの印象はいかがでしたか?
内澤崇仁さん
そうですね。このミュージックビデオが「はじめまして」でした。そういえばミュージックビデオが完成してから、ちゃんとご挨拶していなかったですね。ありがとうございました!
デコボーカルさん
こちらこそありがとうございました!
andropさん一同
とても素敵な作品をありがとうございました。最高でした!
内澤崇仁さん
「RainMan」のミュージックビデオはアニメーションにしたいと思っていて、デコボーカルさんが今までにつくった作品を観たらイメージがぴったりで、それでお声がけさせていただきました。「かなしい朝ごはん」とか「ウシニチ」とか。
一のせ皓コさん
学生の頃の作品ですね(照笑)
内澤崇仁さん
言葉がなくても伝わる表現をされていて、今もそのような作品づくりで、それでイメージがぴったりだなと思ってお願いさせていただきました。
上甲トモヨシさん
ありがとうございます。言葉に頼らないアニメーションというか、特に短編アニメーションは世界に向けて発信することを意識しているので、言葉がなくても伝わる作品を心がけてつくっていました。
内澤崇仁さん
言葉がなくても伝わる普遍的な内容になっていて、そういうところがすごく魅力的だなと思いました。
ー デコボーカルさんは、はじめて「RainMan」を聴いたときはどのような印象でしたか?
上甲トモヨシさん
内澤さんの優しい感情がたくさん詰まっているなと思いました。
一のせ皓コさん
声がとても優しくて、あとはやっぱり歌や作りがとっても上手だなぁと思いました(笑)。私は普段、雨の音とかそういうものを聴いていて、あまり意識して音楽を聴かないので、久しぶりにしっかり音楽と向き合わせていただき、すごく楽しかったし、とってもいいなと思いました。
レインマンとの対話で自分自身が変わっていく
コロナ禍で聴く人に寄り添う音楽を
ー 改めて内澤さんから「RainMan」に込めた想いをお聞かせいただけますか。
内澤崇仁さん
僕たちは悲しい出来事からもたくさん学ぶことがあると思っています。レインマンは悲しみを擬人化したもので、レインマン(悲しみ)との対話によって自分自身が変わっていくというメッセージを伝えたくてつくった楽曲です。物語という形で、悲しみと共存する世界を音楽で描いてみようと思いました。
ー 1年ほどかけてつくった楽曲と伺っています。制作途中で新型コロナウィルス感染症が発生したと思いますが、楽曲に何か影響はありましたか?
内澤崇仁さん
もともとは個人的に悲しい出来事があって、それを乗り越えたときに希望が見えたので、その出来事を忘れないようにとプロットをつくっていたんですけど、その間にコロナがあって、選ぶ言葉が変わりましたね。当初つくっていたものよりも、さらに寄り添った言葉にしようと思って歌詞を変えていきました。
2020年にはじめてリリースする楽曲も、聴く人に寄り添うものにしようと「RainMan」に変更しました。
佐藤拓也さん
コロナになってライブもリリースも予定が全部崩れてしまって、聴いてくれる方に対しても時間が空いてしまい、僕らも外向けの活動がまったくできなかったので、久々に外向きの新しい活動をするのであれば、とげとげしいものよりは心にそっと寄り添う楽曲からはじめたいよねって話し合って「RainMan」をつくっていきました。
ー それを受けてデコボーカルさんは「RainMan」のアニメーションにどのように取り組み、想いを込めましたか? 上甲さんと一のせさんはどのような役割分担なのかも教えてください。
上甲トモヨシさん
世界観、イメージをつくるのは一のせ、僕はいろいろな窓口的なことをやって…
一のせ皓コさん
電話とか連絡とかを全部やってもらって、ミュージックビデオの制作でいうとストーリーや絵コンテ、動画はほとんど私が担当して、そのコンポジットや編集を…
上甲トモヨシさん
一のせがつくったいろいろな素材を全部拾い集めて組み立てていくというのが僕の役割ですね。
一のせ皓コさん
でも、それぞれが得意なパートを描いたりもしています。アニメーションの動きって描き手による個性がすごく出るし、人それぞれ描き方も違っていて、たとえば動き始めから終わりまでを1コマ1コマ緻密に描く人もいますが、私はリズムをとるように描くというか、始まりと終わりの間を正確に描くことができなくて、そのときの雰囲気で描いていくのが得意なので、絵も役割分担がしっかりとあります。
上甲トモヨシさん
一のせは特殊な動きを描いたりするのが多いですね。尖った動きとか。
一のせ皓コさん
でも「RainMan」は穏やかに描かせていただきました。本当は締切まで時間がなくて「早くつくります!」なんて言っていたのに、描きはじめたら楽しくてたくさん描いちゃったんですよ。なるべくていねいに、でもていねいとていねいじゃない間で描きました。ていねいじゃないって言ったらダメだけど。
andropのメンバーがキャラクターになって登場!
レインマンはカバだけどカバじゃない!?
ー andropのみなさんがキャラクターになっていますが、カバや鳥のキャラクターなどはみなさんで相談しながら決めたのですか?
佐藤拓也さん
何回かZoomで打ち合わせをしながら絵コンテを見せていただいたり、意見交換しているなかで、確か内澤君が何か言ったんじゃなかったけ?
内澤崇仁さん
「魚にメガネをかけさせたらメンバーになります」みたいなことを言ったのかな?
佐藤拓也さん
そうしたら打ち合わせ中に一のせさんがバァーって描いてくれて。
内澤崇仁さん
そうそう、速攻で描いてくれた。あっと言う間に。すごい盛り上がったよね。
前田恭介さん
天才だと思いましたね。
内澤崇仁さん
うさぎにヒゲとかね。
佐藤拓也さん
そのとき描いてくれたキャラクターを、そのまま作中に登場させてもらったという感じですね。
一のせ皓コさん
でも、カバではないんですけど…。
ー あっ、カバではないんですね。
一のせ皓コさん
カバでもいいですけど…。
ー リアルな動物ではなく、何をイメージしたのでしょうか?
一のせ皓コさん
あれはぬいぐるみなんですけど… あっ、え〜 あれはカバです。
一同(笑)
一のせ皓コさん
カバではないんだけど…。かわいいもの、耳が小さいと触り心地が良さそうだし、柔らかいと持ちたくなるし、泣いていると可哀想だし、かわいいもの、ですね。
内澤崇仁さん
絵コンテをZoomの画面共有で見せていただいたんですが、その絵コンテが絵本の読み聞かせのような感じで、僕はもうそれだけで泣きそうになりながら聞いていました。
一のせ皓コさん
それは内澤さんの感受性が豊かということですね。ありがとうございます!
内澤崇仁さん
ストーリーもとてもよく練っていただいて、普遍的な部分がとても伝わってきて、僕が曲をつくっていたときのイメージとはまた違った視点で “悲しみ” というものを紐解いてくれたというか、自分で思っていたよりも広い意味合いを持ったミュージックビデオになったと思いました。
一のせ皓コさん
歌詞や楽曲のイメージをなるべく損なわないようにというのは一番にあったんですが、観ていただく方々の世界を広げられるように、アニメーションだと動きによってより深く感情を動かせると思うので、そのお手伝いができたらいいなとは思っていました。
前田恭介さん
クリエイターにお願いするということは “信じること” だと思っているんです。こちらからいろいろと言うことは、ものづくりに対しての足かせにしかならず、デコボーカルさんにつくっていただくことは僕らが決めてお願いしたので、できるものを信じていました。だからこのミュージックビデオは、最高の作品ができたなという感想以外なかったですね。
伊藤彬彦さん
ずっとアニメーションのミュージックビデオをつくってみたいと思っていたので、はじめてがデコボーカルさんと一緒にできてよかったなと思えるような作品になったと思います。
上甲トモヨシさん
自由につくらせていただいて、本当にありがたかったですね。
ー 一のせさんがたくさん絵を描いてしまったのも、楽しかったからなんですね。
一のせ皓コさん
そうですね。描きたくなってしまったんですね。恐ろしいことに。でも描いているときは頭の中は空っぽでヒマなので、「こんなに描いている場合じゃないんだけどなぁ」と思いながら、でも手は止まらないという感じでしたね。
悲しい出来事は世の中からなくなってほしい
でも “悲しめる” ことはすごく大切な感情
ー たくさんの方が「RainMan」のミュージックビデオをご覧になると思います。観る人にとって、どのような存在になると理想ですか?
一のせ皓コさん
泣いたり笑ったり、そういう感情を感じることを大切にするということを思い出したりするのはいいかなと思いました。
感情をなくすとか、気が付かないふりをするとか、それが “大人っぽい” みたいに言われることがありますが、悲しさや辛さの感情をなるべく感じきって、その先に大きな力が湧いてくるということを信じてもらいたいですね。感情を否定せず、大切にしていきましょうということかなと思います。
ー 内澤さんの書いた「RainMan」の歌詞の最後に「大切な僕のレインマン」とあります。レインマンは “悲しみの象徴” です。「悲しさ」「辛さ」はない方が人生楽しいように思いますが、それでもやはり大切ですか?
内澤崇仁さん
人それぞれの中にレインマンがいると思っていて、そのレインマンを大事にしてほしいなって思います。悲しい出来事、辛い出来事というのは世の中からどんどんなくなっていってほしいと思うんですけど、人として “悲しめる” こと、 “苦しむことができる” というのは、僕はすごく大切な感情だと思っています。
たとえば生きている限り死はなくすことのできない悲しい出来事だと思いますが、大切な人が亡くなったときに悲しめないってどうなんだろう。悲しむことができて、それで悲しみから教えてもらうことって、すごくあると思うんですね。自分のこと以外にも人の痛みがわかるとか、すごく大切なことなんじゃないかなって思っています。
ー 歌詞でもうひとつ気になっていることなんですが、レインマンのことを「ああ そうか あなたは ああ」と歌っています。内澤さんは、この「ああ」には何を入れているのでしょうか? ここに何が入るんだろうみたいなお話は、みなさんでされるんですか?
内澤崇仁さん
いやぁ、そんな話はしないですね。それこそ人それぞれの中にいるレインマンだと思っているので、みんな何か当てはまるものが思い浮かぶのかなと思っていました。人によって違うだろうし、そのとき感じたものでいいと思っています。
一のせ皓コさん
自分の記憶の中の忘れていた何かだったり、昔聞いた言葉を思い出したり、昔感じていた自分の視線だったり、私はそんなことを思いました。
内澤崇仁さん
僕はつくっていただいたミュージックビデオを観て、悲しい思いをしたときに得た経験というのは、レインマンが教えてくれていたんだと思いました。過去の悲しい思い出が今も残っているのは、レインマンが教えてくれていたんだ、「ああ そうか」と。
一のせ皓コさん
わかってようやく悲しみが癒えていく、前に進めることもありますよね。
好きなものを見つけ “自分の好きな自分” に(デコボーカル)
夢を持っているなら、行動を起こすこと(androp)
ー andropさん、デコボーカルさんも多くの子どもたちが憧れるお仕事をされていて、夢を叶えた、叶えつつある方々だと思います。みなさんは、どのようにして夢を叶えてきましたか?
上甲トモヨシさん
今のこの状態が夢だったのかはよくわからないけど、自分を信じてやってきて、でもそれだけじゃなくてまわりの人たちとか、いろいろな人の助け、声をしっかり聞いていくと、自分だけではない大切なものが見えてきて、そこから広がって今に至るというか… 。
一のせ皓コさん
アニメーションが好きでアニメーションばっかり観るとか、音楽が好きで音楽ばっかり聴くとか、虫が好きで虫ばっかり追いかけるとか、それでもいいんだけど、別の世界からも自分の好きなものを見つけていくといいと思います。
講師をしていたときにたくさんの学生を見ていたなかで思うことは、漫画が好きで「この漫画めっちゃ知ってます」っていう人よりも、舞台を観に行ったり、演劇をやってみたり、いろいろな視点から好きなものを見つけている人は、行き詰まったときに道を見つけやすそうだったかなと思います。
こうなりたいっていうものがあると、そうなれなかったときにすごいがっかりしちゃうじゃないですか。だから、いろいろな世界から好きなことを見つけて、“自分の好きな自分” になれるといいんじゃないかな。
伊藤彬彦さん
夢を見ること自体が難しいと言われるようになってきたというか、めざしていたものがこの先どんなふうになっていくのかがすぐにわかってしまうようなところもありますが、自分がやったことは誰かが真似できるものではなく、自分だけが辿り着ける場所というか答えになると思うので、自分を信じて好きなことをやればいいと思います。もし自分が親だったら、子どもにはなるべく好きなことをさせてあげたいなと思いますね。
前田恭介さん
月並みですが、好きなことをやり続けることですね。でもやり続けるにしても、一のせさんが言ったように、いろいろな視点からやった方がいいと思うんですよね。固定観念で、“これが絶対に自分の天職” みたいなのは、意外とそんなことはなかったということも多いですし、辿り着いたとしてもそこに一直線に行くよりも、いろいろな道を辿った方が幸せな気持ちになるんじゃないかな。視野を広げて、いかに自分がハッピーでいられるかを考えた方がいいかなと思います。
佐藤拓也さん
僕も夢を叶えたかって言われるとそうでもないんですが、夢ってなんでもいいのかなって。どこかへ行きたいとか、欲しいものを買いたいとかも夢だし、でもその夢を叶えるためには、とにかく行動なのかな。やはり何もしなければどうにもならないわけで、その行動ひとつで、仮に悲しい思い、苦しい思いをしたとしても、それが夢につながる一歩だと思うし、やっぱり夢を持っているなら行動を起こすことがすべてなんじゃないかなと思います。
内澤崇仁さん
目標があるなら、計画を立てて考えて、到達できるまで努力するということを僕自身はしていますが、大きく見れば好きでやりはじめて、そこに向かっているということで、すでに夢は叶っているなとも思っています。そして諦めた時点で、その先のやりたいことは叶わなくなっちゃうのかなと思うので、自分を信じて行動するということが大きいなと思います。
今できる方法で音楽を届けたい(androp)
新しいやり方でチャレンジ(デコボーカル)
ー 2020年はコロナの影響もあり、多くの人が集まるライヴやイベントは中止や延期など、思うような活動ができないことが多かったと思います。しばらくはウィズコロナはやむを得ないと思いますが、そんな中にあって、2021年に挑戦したいことなど、目標がありましたら教えてください。
佐藤拓也さん
ライブができなくなってしまいましたが、それでも今できる音楽を届ける方法はあると思うので、メンバーやスタッフと話し合って、来年ライブができなかったとしても、音楽を届けられるように努力したいなと思います。
前田恭介さん
こんな時代だからこそアイデアひとつで何でもできると思うんですよね。だからそれぞれが好きなことをやって、各々がカッコよく生きていれば、それがバンドに生かされると思います。
コロナになって、すぐに結果を出さなきゃいけないとか、急速に消費されることに対してみんなの意識が変わってきたと思うので、新しいことにめげずに順応して、状況に合わせてみんなが楽しく生きていればバンドは幸せな状態でいられると思うので、そんな来年になればいいなと思っています。
上甲トモヨシさん
我々はアニメーションをつくる以外にも、ワークショップや子ども向けの上映会などの活動をしていて、そういうものができなくなって、すごく悩んで何か新しいことができないかってひたすら考えました。
一のせ皓コさん
これからワークショップを “ドンっ” とやっていこうと思っていたときだったんですけど、子どもをたくさん集めて “わー” ってわちゃわちゃやるのって本当にできなくなってしまったので、それこそこうやってZoomでワークショップをやっていくみたいなことをやっています。
上甲トモヨシさん
そうなんです。だから新しいやり方でワークショップをやったり、思いもしなかったことや発想が生まれました。なので来年はいろいろなことに対応できるなと思っているので、可能性というものを感じながら、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。アニメーションをつくるだけではなく、幅広く、時代にあった、いろいろな人たちに豊かなものを提供できるようにしたいと思っています。
一のせ皓コさん
ワークショップやってみる?
上甲トモヨシさん
いいですねぇ。今すぐできますよ。
ー それでは最後にデコボーカルさんにワークショップをやっていただいて終わりにしましょう。今日はありがとうございました!
androp(アンドロップ)
内澤崇仁(Vocal&Guitar)、佐藤拓也(Guitar&Keyboard)、前田恭介(Bass)、伊藤彬彦(Drums) による4人組バンド。2009年12月に1stアルバム『anew』でデビュー。これまでに11枚のシングル、10枚のアルバム(ベストアルバム含む)をリリース。数々の映画やドラマ主題歌、CMソングを手掛けるなど楽曲の注目度は高く、ミュージック・ビデオもカンヌ国際広告祭(フランス)、One Show(アメリカ)、Webby Awards(アメリカ)ほか国内外11のアワードで受賞するなど、その映像世界やアートワークでも世界的な評価を得ている。
映像・音響・照明が三位一体となったスペクタクルなステージ・パフォーマンスも大きな注目を集めているほか、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」等、大型フェスへの参加も多い。内澤崇仁は楽曲提供も多く、Aimer「カタオモイ」、上白石萌音「ハッピーエンド」、坂本真綾「独白」など高い評価を得ている。
2020年1月に10周年アニバーサリーライブを人見記念講堂2days開催し、ソールドアウト。12月には約11ヶ月振りの有観客ライブをBillboard Live TOKYOで開催。チケットは即ソールドアウトとなった。2021年3月にはBillboard Live OSAKAでのワンマンを開催予定。
https://www.androp.jp
デコボーカル
東京都小金井市を拠点に、アニメーション、イラストレーション、ワークショップ、パフォーマンスなど、子ども向けから大人向けまで幅広くさまざまなコンテンツを制作している、一のせ皓コと上甲トモヨシによるユニット。
地域活動として小金井市にある “はけ(崖)” のまわりに住む作家たちで手を取り合い、上映会、ワークショップなどのイベント活動を行う『はけの手アニメーション』としても活動中。
http://decovocal.com
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