サバイバルシリーズ第2弾
深海と冒険の魅力がたっぷり!
ー 2013年に上野の国立科学博物館で開催された『特別展「深海」』でダイオウイカが展示され、それ以降、深海や深海生物への注目が非常に高くなったと感じています。そこでは潜水調査船「しんかい6500」の実物大模型も展示されていました。そんな「深海」好き、冒険好きにとって、映画『深海のサバイバル!』は、子どもはもちろん、大人が観てもとても楽しく、観終わった後に子どもといろいろな話ができそうな映画だと感じました。伊沢さんはアンモ号のオペレーターとして声優初挑戦ですが、出演の依頼があったときはどのように思われましたか?
伊沢拓司さん
大変光栄でした。サバイバルシリーズには2年くらいPRで携わらせていただいているんですが、サバイバルシリーズは知的好奇心に寄り添う作品なので自分にもピッタリですし、このようにまたご一緒させていただけて本当にありがたいです。
ー 声優はいかがでしたか?
伊沢拓司さん
声優に関しては完全に素人なので、0からの学びの姿勢と言いますか、とにかく意識したのはイントネーションを間違えないこと、専門用語を噛まないこと、ちゃんと予習していく、ということでした。今回の役は潜水艇「アンモナイト号」のオペレーターなので、まさに高井先生が普段使っていらっしゃる用語が出てくるのですが、それを間違えないように意識しました。
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ー 伊沢さんは研究者になることも考えていたとのことですが、自分が1番になれるものということでクイズを選びました。今のようにテレビや、映画で声優を務めるというご活躍は想定されていましたか?
伊沢拓司さん
まったく考えていなかったですね。そもそもは研究者になりたいと思って大学院に行ったんですが、農学部の研究室だったこともあってアフリカからの留学生が多く在籍していて、もう勉学に対する気合が違ったんです。がんばろうとしたんですけどもう意識の点で自分が負けているから、まぁ敵わなくて、これはダメだ実力がないと感じました。
そのとき改めて自分ができること、自分がより社会に貢献できることってなんだろうと考えたときに、クイズを通して良い知識、おもしろい知識、楽しい知識、もしくは考え方の習慣を伝えていくことかなと思って、クイズの方へ舵を切りました。
知らないから怖い、知れば怖さはなくなる
勇気を持って未知の世界へ踏み込んでほしい
ー 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の高井先生とは今回が初めてですか?
伊沢拓司さん
初めてです。いきなりお伝えすることなのかはわかりませんが、カッコいいですよね。オープンなカッコ良さといいますか、高井先生のようにフィールドで活躍し、研究成果を出しているというのは、僕が憧れていた研究者像であるのは間違いないですね。
ー 高井先生はこの映画で深海の表現監修をされていらっしゃいます。映画を観る子どもたちに、どのような深海を見てもらいたいと思いましたか?
高井研先生
主人公のジオとピピのふたりは深海にまったく恐怖を抱いていませんよね。「なんでも来いや!」みたいな感じですが、おそらく多くの子どもたちは、知らないところに行くのは怖いと思うんですよね。僕も子どもの頃は兄貴にちょっと山奥に連れて行かれたくらいで泣いていたビビりで、幽霊も怖ったし、その気持ちはよくわかります。でもビビリって、知らないから最初はビビるけど、知っていくことで怖さを克服していくんですね。
だから知らなくて怖いと感じたことでも、知ることによって少しずつ克服していく、自分の成長を自分で実感しながら、未知のものにどんどん頭を突っ込んでいってほしい。『深海のサバイバル!』は、そういう勇気の物語でもあると思います。 特に深海は人がほとんど行ったことがない場所なので、主人公のように勇気を持って突っ込んでいく、というのを、この映画から学びとってほしですね。
ー 深海は静かなイメージがありますが、映画のようなダイナミックな活動のある場所なのでしょうか?
高井研先生
映画のようにめちゃくちゃダイナミックなところがあるのも事実ですが、ほとんどは静かで、退屈なところです(笑)。 でも僕は30年くらい深海を研究していて、25年くらいは退屈なところは大嫌いだったんですが、最近、そういう退屈な世界にうごめいている新たな生き物たちが “見える” ようになってきました。生き物がいなかったんじゃなくて、知らないから見えていなかっただけで、知れば知るほど見えてくるようになるんです。
だから『深海のサバイバル!』を観て何かに興味を持ったら、どんどん見に行ってほしいですね。そうすると、今まで見ていた同じ場所でも、まったく違った風景に見えてきます。そういう行動する勇気を学んでほしいですね。
生命の起源を探るのは、見えないものを “見る” 力
見えたときの “ビリビリ” の衝撃をクイズで!
ー 高井先生の研究、ライフワークは、数千メートルの深海の熱水にいる微生物から、40億年前に生まれた微生物を探し、生命の起源を探っている、という認識で間違っていないでしょうか?
高井研先生
カッコよく一言でまとめるとそうですが、実はそんなカッコいいことはやっていないですけどね(笑)。
ー 微生物の40億年前の姿がわかると、生命の起源がわかるのでしょうか?
高井研先生
そうですね。でも今の海の底に行ったとしても40億年前の深海とは環境が異なります。1万メートル以上の深さのあるマリアナ海溝の底ですら酸素があり、酸素を食べる生物で満ち溢れています。40億年前は酸素がない海が広がっていて、生命はそこで誕生しました。だから今の深海の熱水に住む微生物を調べても、その当時の姿とはまったく異なります。今の地球、特に酸素に毒された姿になっているんです。
しかし、その熱水がある海底のわずか下を調査すれば、酸素のない40億年間まったく変わっていない世界があります。残念ながら、今の科学の力では映画のようには調査できないんですが。 でも、その世界を自分の頭の中に思い描くことはできます。選ばれた人にしかできないと自分では思っていますが、僕たち科学者の情熱と気概から描き出すことができ、それがまさに快感というか、最大の喜びなんです。
ー 伊沢さんは高井先生のような研究者の方を前にするといろいろなことを聞きたくなると思うんですが、印象に残っていることはありますか?
伊沢拓司さん
先ほども高井先生が “見える” とおっしゃっていましたが、とてもおもしろい言葉だなと思っています。熱水の下の酸素のない世界は物理的には見えないんですが、まわりから想像すると見えてくるということですよね?
高井研先生
その通りです。そしてそれは知識があるからなんです。知識がないと単なる妄想ですが、めちゃくちゃ膨大な知識があると、電気が走ったかのようにつながりはじめて、曼荼羅になるんですよ。今までバラバラにあった情報が、いきなりお互いに連鎖しはじめてひとつの世界を描き出す。その瞬間のビリビリ感、感動は、たまりません。これ以上の快感ってないんですよね。人がつくりだすレジャーなどでは得られない快感で、あの、知識が有機的につながって世界をつくり出す瞬間を味わいたくて研究者になったようなものです。
子どもたちにはちょっと難しいかもしれないけど、同じように感じる瞬間は、人それぞれ必ず何かあると思うんです。これは科学だけじゃなくて人生において何かあるはずなんです。だから保護者や大人はそれを子どもたちに味わってもらえるよう、いろいろな経験をさせてあげてほしいと思います。いろいろな経験をすれば、それだけたくさんの知識を得ることができます。だから興味のあることしか学ばないというのはダメで、たくさんいろいろなことが頭の中に入っていると、それが最後つながってくる、というのが重要かなと思います。まさにクイズ王はそのために存在していると言っても過言ではないよね?
伊沢拓司さん
ありがとうございます。まさにその通りです。僕は高井先生の感じているビリビリに比べると豆電球ほどのビリビリですが、クイズってまさにそういう感覚を得られます。 大きなジグゾーパズルがあって、「ここにどのピースが入るでしょう」となったとき、何もないところから1つのピースを指定するのは単なる当てずっぽう(妄想)ですが、まわりのピースが埋まっていればいるほど、そこの1ピースは推論で埋められます。たいして重要ではないと思っていた端っこのピース、つまり周辺知識があることで正解できるようになるんです。そう考えると、無駄な知識というのは存在しません。
高井研先生
その通り。
伊沢拓司さん
僕はそういうビリビリを、クイズでたくさん味わうようにしています。だから答えの知っているクイズを正解するより、知らないクイズの方が好きなんです。
ー 持っている知識から推論して正解を導き出す方が楽しいということですね。
高井研先生
それが科学の楽しみであり、好奇心が満たされる瞬間ですよ。
伊沢拓司さん
そうですよね。だって熱水の下は誰も開けて見られないんだけど、「こんなものがほんとにありそうだ!」と多くの人が思えるような証拠集めをして、“見える” のと同じ状態を作っていく。外堀から思考で徐々に埋めていくような作業が楽しいんですよね。
高井研先生
そう。40億年前の世界を見るということは、まさにそういう作業なんですよね。見えていないんだけど、“見える”。
マニアになったらダメ
今できる最高の遊びを友だちや家族と
ー 深海や生き物に興味を持っている子どもたちはたくさんいます。将来、高井先生のようにJAMSTECで研究したい、「しんかい6500」に乗りたい、という夢を持っている小学生くらいの子どもたちは、今、どのようなことを勉強したり、やっておくといいですか?
高井研先生
JAMSTECのイベントには海好き、海の生物好き、深海マニアがたくさん来ます。でもそういう子どもたちには、「マニアになったらダメだよ」って言っています。 人間には、その年齢、小学1年生には1年生、6年生には6年生、中学生には中学生で体験しておかなければならないことがたくさんあるんです。そしてそれが将来活きてくるんです。そのためには勉強ができるだけではダメで、めっちゃ遊んで、自然の中で感動できる心が大事なんです。
JAMSTECで研究するのは、けっこう狭き門です。そこを勝ち抜くためには、いろいろな経験をしていることが大切で、マニアでは難しいんです。そしてどういう人に来てほしいかというと、人間としての器の大きさとか、精神の健全さ、そして何よりも身体の健全さが必要です。研究や人生って長いので、ちょっとやそっとではへこたれない心と体が重要なんです。そしてそれは自然の中から学ぶことが多いんです。
そういう意味では、何か特別なことをするんじゃなくて、今できる最高の遊びを友だちや家族とみんなで楽しんでほしいというのが、本当に一番なんです。なんかバカみたいな答えになっていると思うんですけど、これって真実なんですよね。
ー 幼い頃の自然の中での遊びはやはり大切なんですね。一方で、とは言っても勉強も必要です。伊沢さんは子どもの頃「九九ができなかった」と聞いたことがあるのですが、どのように克服しましたか? 勉強が好きではないという子どもたちは、どのように考えると勉強が苦にならなくなるでしょうか?
伊沢拓司さん
九九が本当に苦手で、算数、数学はずっと苦手意識を持ったままでした。でも僕は子どもの頃から負けず嫌いで、成長している自分は好き、できない自分は大嫌い。だから受験までは数学ができない自分から目をそらし続けたし、いざ受験という勝負の舞台に立ったときには勝つために勉強しました。いやいやでしたけど。
だから無理して勉強を好きになる必要はないなというか、「嫌いだけどできる」になれば目的は解決するし、できたからこそ味わえるおもしろみというのもあって、その結果として好きになることもあるので、勉強そのものじゃなくて “自分のことが好き”、というのでも良いんじゃないかなと思います。
映画からいろいろな楽しみ方を発掘
次世代の深海スターをめざせ!
ー 最後に映画『深海のサバイバル!』を親子で楽しむポイントを教えてください。
伊沢拓司さん
本当にたくさんの学びがありますが、何よりジオとピピがとても楽しそうにしているんですよね。見方によっては彼らは宿題もしていないし、模範的ではない夏休みの過ごし方をしているんですが、カニ一匹に心をときめかせています。まずはこの映画を楽しんで、楽しんだあとは、世の中にはこういうおもしろがり方、ああいう楽しみ方があるんだなという感じで、さまざまな学びをおもしろがる姿勢に注目してもらえればと思います。おうちに帰って、親子で映画の内容について話すのなんてまさに学校じゃできないおもしろがり方だと思います。
高井研先生
深海を大冒険するジオとピピの活躍を楽しんで、妄想を膨らませるというのが1番ですね。そして本当は夏休みに深海に行ければいいんですが、僕たちの力が足りなくて今はまだ行けません。
じゃあどうするかと言うと、ひとつは身近な海を楽しんでほしいと思います。もちろん深海には多少変わった生き物がいますが、よく見ると磯にいる生き物とあまり変わりません。身近な海で、その自然とそこに生きている生き物を観察してほしい。そして深海の生き物との違いや共通点を見つけてみる。考えることってものすごく重要です。それがこの映画の見どころかつ、その後の効果だと思います。
50年後には、誰もがちょっとしたお金を払えば深海に行けるようになると思います。それまで深海の研究がなくならないようにするので(JAMSTECの深海調査の様子はここで見られるよ!)、子どもたちには次世代の深海スターになってほしいですね。
クイズ王の伊沢拓司さんが声優初挑戦、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の高井研先生が深海の表現監修を務めた『深海のサバイバル!』は、2021年8月13日(金)全国公開!
伊沢拓司(いざわ たくし)
1994年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し、開成高校時代には「全国高等学校クイズ選手権」史上初の個人2連覇を達成。林修先生の教え子でもある、東大卒クイズ王。2016年に「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数170万人を超えるYouTubeチャンネル『QuizKnock』の企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnock設立と同時にCEOに就任。クイズプレーヤーとして学校訪問から企業PR支援までマルチに活躍している。
高井 研(たかい けん)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)超先鋭研究開発部門 部門長。深海における微生物研究の第一人者。1997年、京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。博士(農学)。JAMSTEC地殻内微生物研究プログラムグループリーダー、深海・地殻内生物圏研究分野分野長などを経て、2019年より現職。専門は深海や地殻内といった地球の極限環境に生息する微生物や生物の生理・生態や、その生態系の成り立ちと仕組みの解明、および生命の起源や地球外生命の存在についての研究にも取り組んでいる。著書に『生命はなぜ生まれたのかー地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)、『微生物ハンター、深海を行く』(イースト・プレス)などがある。
JAMSTECの深海調査の様子はこちら
http://www.jamstec.go.jp/park/
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