嫉妬の感情をかわいく魅せるには?
イイナーとシンパイの注目ポイント!
ー イイナーが新しいキャラクターとして登場しますが、とてもかわいいキャラクターです。どのような想いでこのビジュアルになったのでしょうか?
イイナーはデザインチームがすごく苦労したキャラクターなんです。イイナーは “嫉妬” の感情なんですが、“嫉妬” ってあんまりかわいい感情とは言えないですよね。だからどのバージョンのイイナーも「かわいくなくて好きになれないね」という意見が多かったんです。
そんなときにプロダクションデザイナーと監督が「じゃあ、こういうのはどう?」って「あ〜うらやましい。いいなぁ」って雨に濡れた子犬みたいな顔をして見せてくれて、「あ、それいいね!」って。それでイイナーの方向性が決まりました。
ー 上目遣いでうるうるした瞳ですね。キャラクターはチームで考えるのでしょうか?
担当は決まっているんですが、キャラクターをデザインするときはストーリーにどう役に立つかを考えなければならないので、ストーリー担当やいろいろな人の意見を聞いて考えます。
ー『インサイド・ヘッド2』ではイイナーのほかにシンパイ、ハズカシ、ダリィも登場します。他に苦労されたキャラクターはいますか?
私はイイナーとハズカシを担当したんですが、ハズカシは一番体格がよくて顔がフードで隠れているというイメージが監督の中でかたまっていたので、イイナーに比べるとスムーズでした。でも、“恥ずかしい” という表現が難しかったですね。
恥ずかしいポイントってみんな違うじゃないですか。だから、どういうときにどんな表情をするのかをたくさんリサーチしましたし、恥ずかしいときの表情は “怖い” とか “驚いた” という表情に似ているところがあるので、どうやって違いを出すかには苦労しました。
ー イイナーやハズカシにモデルはいるんですか?
特にいないですね。でも1作目の『インサイド・ヘッド』の感情たちと新しい感情たちにはストーリー的なペアがあるんです。ムカムカのデザインはもともとは三角形なので、そのペアのイイナーは富士山型になっていますし、カナシミは涙型のイメージなので、そのペアとなるハズカシは卵型というふうに形を決めていきました。
ー そういうのは観ているだけではなかなか気づけないですね。キャラクター・アート・ディレクターという立場から、ここも注目して! というところがあれば教えてください。
ちょっとしたことなんですが、イイナーのヘアクリップの位置は左右で少し差があるんです。嫉妬は安定していない感情なので不安定さを表現しています。
あとはハズカシのフードのヒモ。手で握っているときはいいんですが、手を離すと鼻水が垂れているみたいに見えちゃって。なのでそう見えないようにするのに、実はすっごく苦労しました。これは強調して言っておきたいです(笑)。
ー 鼻水に見えるか見えないか、映画を観るときのチェックポイントですね(笑)
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チームをまとめる苦労、日本人らしさとは?
チームのみんなのチアリーダーでありたい
ー『インサイド・ヘッド2』ではキャラクター・アート・ディレクターという、デザインチームをまとめる立場でしたが、ピクサーという人種や考え方が異なる人がたくさんいる現場で人をまとめる大変さはありましたか?
私のチームは3人だったんですが、国のカルチャーがどうというよりも、同じ “キャラクターデザイナー” だという意識が強かったので、そこでつながっていたから、特にまとめる苦労というのはなかったですね。
ー 意見の食い違いなどもないのでしょうか?
これは私のスタンスですが、ピクサーで働いているからには一流のデザイナーなんです。だから、私がわざわざ口を出す必要はないと思っています。もちろん、何か意見があれば「こうしたらいいんじゃない」みたいには言いますが。あと、プロダクションデザイナーと監督からもノートが来るので、ノートが届くと「これどうしようか?」という話し合いはします。
ー ピクサーで働きご活躍していて、ご自身が日本人だと感じることはありますか?
これは私の性格かもしれませんが、まわりに比べると少し主張が控えめかな、とは思います(笑)。他の人たちがすごくバシバシ意見を言うときも、私はどちらかというと聞く立場にまわることの方が多いですね。
ー その控えめさはお仕事の役に立っていますか?
自分で “控えめ” と言っておきながらなんですが、私の理想のアートディレクター像は、リーダーとして引っ張っていくというよりも、チームのみんなの一番のチアリーダーでありたいと思っています。今回のキャラクターデザインのチームでは、そういう私のスタンスは合っていたかなと思います。
ピクサーで働きたい子どもたちへアドバイス
あなたの感情はあなたを守るために存在している
ー 今の仕事の魅力、楽しいところは?
楽しいのは、毎日絵を描いてお金をいただいていることですね(笑)。監督からダメ出しされたり大変なこともあるんですが、やっぱり絵を描いているときは楽しいですし、みんなからすぐに意見をもらえるのは、チームで働いているメリットだと思います。
ー 高校卒業後の進路に悩んでいるときにお母さんのアドバイスでアメリカに留学し美術大学に入ってアニメーションの道に進んでいますが、もともと絵は好きだったんですか?
絵は好きだったんですが、それを仕事にしようとは思っていませんでした。稼げると思わなかったですね。でもアメリカに来て『サムライ・ジャック』などのアメリカのアニメを好きになって、「あ、これいいな!」と、こっちのスタイルでやってみたいなと思いました。
ー ピクサーで働きたいと思っている子どもたちがたくさんいます。どうすればピクサーで働き、アニメーションづくりに関われるか、アドバイスをお願いします。
いっぱい絵を描いてください。そして漫画でもアニメーションでも映画でも美術館でも、どんなエンターテインメントでも、いろいろなものをたくさん見て、いいものを知ってください。いいものを知っていると自分のいる場所がわかりますし、そこからどれくらい努力しないといけないか、めざすところがわかると思います。なので、今はいいものにたくさんふれてセンスを磨いてほしいですね。
ー 子どもや学生の頃に何気なくやっていたことで、今の仕事に役立っていることはありますか?
高校生のときにプレイステーションを買ってもらってゲームにハマったり、便箋やラミネートカードをつくったり、友だちとイラストを交換したり、そのときの経験は役に立っているかな?
でも意外だったのは、2018年にドミー・シー監督の映画『私ときどきレッサーパンダ』にキャラクターデザインとして参加したんですが、監督から70年代、80年代のアニメや漫画のスタイルをピクサーと融合してほしいと言われてリサーチをはじめてみたら、その時代のアニメや漫画が気がつかないうちに自分の記憶に刻まれていて、それはびっくりしましたね。
ー たくさんのお子さん、大人も『インサイド・ヘッド2』を楽しみにしています。映画を通して、子どもたちにはどんなことを伝えたいですか?
社会が、大人はもちろん子どもにも “完璧であれ” と求めることが多いと思います。それこそ子どもたちは「こうした方がいい」「こういうふうにしておいた方がいい」と、成長にともないより完璧になることを求められることが多くなると思います。でも、別に完璧じゃなくていいし、完璧じゃないことで自分をダメだと思う必要もありません。“あなたの感情はあなたを守るために存在していて、あなたのことが大好きなんだよ”、ということが伝わると嬉しいですね。
それこそ毎日完璧にしようとがんばっている大人の方にも伝わってほしいですね。日本に先駆けて公開された国で『インサイド・ヘッド2』が大人の方にも受け入れられているのは、このメッセージが響いたからかなと思っています。
ディズニー&ピクサー映画最新作!『インサイド・ヘッド2』は2024年8月1日(木)全国公開!
村山佳子(むらやま けいこ)
キャラクター・アート・ディレクター。高校卒業後アメリカに留学。カリフォルニア州パサディナのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン(美術大学)に編入し、アニメーションの道に進む。Netflix、ドリームワークス・アニメーション、ディズニー・テレビジョン・スタジオ、クロモスフィア・LAなどさまざまな企業でキャラクターデザインに携わり、2022年ピクサーに入社。第95回アカデミー賞にもノミネートされた長編映画『私ときどきレッサーパンダ』にキャラクターデザインとして参加し、『インサイド・ヘッド2』ではデザインチームを率いるヘッドとして、キャラクター・アート・ディレクターを務める。『インサイド・ヘッド2』で主に手掛けたキャラクターは、少し大人になった主人公の女の子ライリー、新しい大人の感情イイナーとハズカシ、ライリーが密かに恋するゲームのキャラクター、ランス・スラッシュブレードなどで、日本のエッセンスを取り入れた “カワイイ” キャラクターのデザインを得意としている。
2024年8月1日(木)全国公開! ディズニー&ピクサー映画最新作!
インサイド・ヘッド2
どんな感情も、きっと宝物になる。
ディズニー&ピクサーが贈る、あなたの中に広がる<感情たち>の世界。少女ライリーを子どもの頃から見守ってきた頭の中の感情・ヨロコビたち。ある日、高校入学という人生の転機を控えたライリーの中に、シンパイ率いる<大人の感情>たちが現れる。
「ライリーの将来のために、あなたたちはもう必要ない」
シンパイたちの暴走により、追放されるヨロコビたち。巻き起こる “感情の嵐” の中で自分らしさを失っていくライリーを救うカギは、広大な世界の奥底に眠る “ある記憶” に隠されていた‥‥。
『インサイド・ヘッド2』監督 ケルシー・マン メッセージ
「この映画は、自分自身を受け入れることをテーマにしています。ダメなところも含めて、自分を愛すること。誰しも愛されるために、完璧である必要はないのです」
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