
米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2026(以下、SSFF & ASIA 2026)』にノミネートされた作品が、2026年5月25日(月)〜6月30日(火)に都内複数の会場で上映またはオンライン配信されます。『SSFF & ASIA 2026』では世界100以上の国と地域から集まった5,000以上の応募の中から選ばれた約250作品を上映・配信するもので、奈良工業高等専門学校在学中の福田悠人監督の『箱庭のAI』という作品も、見事審査を通過し上映されます! スマホ・SNSネイティブのZ世代、そして情報工学を学んでいる福田悠人監督に、AIとの恋愛をテーマとした作品について、AIやSNSとの付き合い方などについてお伺いしました。AIを冷静に見つめる監督の視点は、小学生を持つ親御さんにとって、AIの活用方法や付き合い方のヒントが詰まっています。また、福田悠人監督の作品は配信でも観られるので、ぜひご覧ください!(インタビュー:2026年5月8日[金] TEXT:高木秀明)
AIとの恋愛はSFではなく現実
高専生チームが挑んだ
リアリティの追求
― 福田悠人監督についてと、『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2026(以下、SSFF & ASIA 2026)』のU-25プロジェクトに応募した経緯を教えてください。
僕は今、中学卒業後からの5年間で専門的な工学を学ぶ「奈良工業高等専門学校」(以下、奈良高専)の5年生(大学2年生相当)で、今回の作品は学校の「アクティブラーニング」という授業の一環でつくりました。コンテストに出してみようとは考えていましたが、学校の授業ということで以下の制約がありました。
・全員が何らかの形で関われること
・奈良高専生・情報工学を学んでいるというステータスを活かせること
・学校の機材などを活用すること
・学外活動を最小限に抑えること
上記に加え、集まった8人のメンバーの特性を考慮して「映像」か「ゲーム」の制作に絞り、さらに締切を考慮した結果『SSFF & ASIA 2026』のU-25プロジェクトを目標に「映像」を制作することに決めました。
― 監督の作品『箱庭のAI』では「生成AI」を題材にしています。たとえば2013年に公開された『her/世界でひとつの彼女』など、以前から生成AIとの恋愛を描く映画はありましたが、今はSFではなく身近な現実になりつつあります。今回「生成AIとの恋愛」をテーマにした理由を教えてください。
テーマについては僕が「AIの未来予想や共存」という大枠を出し、チームで話しあった結果「チャットAI」に決まりました。チャットの相手としては故人や一方的に執着している相手という案も出ましたが、描きやすさや世代的な背景から「恋愛」を選びました。
また生成AIとの恋愛がSFではなく現実味を帯びてきていることもあり、あまりにも根拠に欠けるシナリオは没入感を失うと感じたため、実際に起きた事例(生成AIに導かれての殺人あるいは自殺)や、“ひとりエコーチェンバー ※” も参考にしてリアリティを持たせています。
※ひとりエコーチェンバー:「エコーチェンバー」はSNSやネット掲示板などの閉鎖的な空間で、自分と似た価値観や意見を持つ人々と交流しあうことで偏った意見が増幅・強化される現象。一方「ひとりエコーチェンバー」は、基本的にはユーザーの意見を否定しない生成AIを相手に会話をすることで、自分の偏った思想がどんどん増幅されていく状態。自分の脳内で行う「ひとりエコーチェンバー」もあり、こちらは「脳内エコーチェンバー」と呼ばれることもあるが、いずれにしても自らの偏った思想が増幅されていく状態。
― 今の若い⽅々は以前と⽐べ「恋愛に興味がない」と⾔われていますが、監督ご⾃⾝、まわりの友⼈などは、恋愛には興味はありますか?
興味がないことはないと思います。彼女がいる友だちもいますし、恋バナもします。ただ、結婚などの遠い未来までをイメージして恋愛の話をする場面は少ないかもしれません。僕自身も興味はありますが、なかなか彼女ができず焦っています(笑)。

2026年/4分59秒/監督:福田悠人
主人公・蓮(レン)の恋人・咲(サキ)への重すぎる愛によりクリスマスに終わりを迎えたふたり。絶望した蓮は心の穴を埋めるためにAIチャットの中に咲を再現しはじめる。画面越しの会話に溺れていく蓮が最後に選ぶのは、虚構か現実か。
上映スケジュール
https://www.shortshorts.org/2026/program/garden-of-ai/

AIは責任をとれない
だからこそ最後は
人間の意志が価値になる
― 今年に⼊ってから仕事で生成AI(GeminiやClaude、ChatGPTなど)を使う機会が⾶躍的に増えました。『箱庭のAI』にもあるように、生成AIは⼼地良い答えを返してくれるし、気遣いもしてくれます。便利で元気づけられることもある⼀⽅で、依存や妄信、思考停止の危うさも感じます。生成AIを含むAI(以後、生成AIも「AI」と表記)の便利さ、危うさについては、どのようにお考えですか?
情報工学科に在籍しているのでAIはよく使いますが、思考力の低下は明らかにあると感じています。しかしAIという技術がある以上は避けて通れないので、「程よい距離感を試し続ける」しかありません。人間はAIの処理速度や正確さには勝てないので、自分の中に “絶対的な価値観や指針” を持ち続けることが大事だと思っています。
― 監督にとっての絶対的な価値観・指針とは?
「最終的な受け取り手は人間」ということと、「人間の価値は絶対にある」ということですね。そしてどんなに技術が発展しても、クリエイティブ系においては人間の感性が入り込む余地はあると思っています。
それにAIには “責任をとる能力” がありません。意思決定の結果に責任を負うのは、将来的にも人間が担っていくと思います。エコーチェンバーが引き起こす危うさもAIは責任を負えない領域ですし、その結果に対して責任をとるのは人間です。
学校でも「ガンガン使え」という先生と、「絶対ダメ」という先生もいて、先生方もAIとの付き合い方を学生にどう伝えるかは試行錯誤しているようで、今は個人に託されている状況です。
― 作品はすべてアニメーションで構成されています。咲と蓮を実写にしなかったのは何か理由がありますか? また咲も蓮も顔が描かれていませんが、どのような意図があるでしょうか?
アニメにした理由はふたつあります。ひとつは、クリエイティブ的な技術不足をカバーするための戦略的な判断です。美大生やプロと実写で戦って勝つことは難しいので、そこでは勝負しないという戦略をとりました。
もうひとつは僕の主義として、情報量をあえて削ることで “観客の想像力” に委ねたかったからです。顔を描いていないのもそのためです。人間が “間” を想像で補完することによって、より印象深い作品になることもあると思っていますし、場面のすべてを詳細に描くと、どこかで解釈の不一致を招いたり、本当に重要な情報が埋もれることもあると考えています。

― 作品のタイトルが『箱庭のAI』です。5月29日(金)公開の是枝裕和監督(『そして父になる』『万引き家族』)の最新作が『箱の中の羊』という、息子を亡くした夫婦がヒューマノイドを迎え入れるお話で、どちらのタイトルにも “箱” が付いていて、どんな意味を込めたのかなと思いました。AIのブラックボックス的な感じや人目を避ける、狭い世界を意味していますか?
※是枝裕和監督の『箱の中の羊』というタイトルは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』の一節から着想されています。
「箱庭」は、そこが蓮にとって都合が良く、現実とは切り離された独りよがりな空間であることを表しています。そしてその後に続く「AI」は日本語限定ですが「アイ」とも読めるので、AIと愛のダブルミーニングになっています。AIが持つブラックボックス的な側面との関連はありません。
英語版のタイトルはそのまま訳して『Garden of AI』で、『Garden of 〜』という表現は洋画でも使われているので、そこも意識して翻訳しました。
AIにすべては任せない!
エンジニアの視点でクオリティと
コストや消費電⼒まで考慮
― 監督がこの作品で一番伝えたかったことは何でしょうか?
実際の事例をある程度参考にしていることもあり、やはりAIへの依存や思考力低下の危険性についての啓発という目的はありますが、誰かに何かを届けたいというよりも、できることをやろうという感じで、僕やチームにとっては “制作過程そのもの” が、実質的に画像・動画分野におけるAIとの付き合い方の模索になっていて重要でした。
― 制作過程を経て得たものは? 苦労したことについても教えてください。
得たものとしては、思っていたことは結構実現できたなという手応えですね。AIによる画像や動画の生成では完成したものが出てきて、そこに人間の入る余地はないと思っていたので、テキストによるコードベース(プログラミング)で動画を生成する手法をとりました。これにより、細かな手直しもできて、人間の創造性を残しながらAIのスピード感も享受できて、それは自分の中でうまくできて良かったと思っています。
そのために既存ソフトを使うのではなく、専用のWebアプリを自作しました。これは作業スピードの飛躍的な上昇というAIの圧倒的なメリットを活用しつつも、自分の表現・思想・意思・感性といった部分もしっかり組み込める形を探求したためです。
一方、監督としてのリーダーシップに関するところには反省点が残りました。シナリオやプログラミング、発表用ポスターや報告書などはメンバーを積極的に巻き込むことができましたが、動画や音源についてはほとんど自分か特定のメンバーに作業が偏ってしまい、一部のメンバーを置いてけぼりにしてしまったかもしれません。


― U-25プロジェクトには美大⽣や映像の専⾨家も応募したと思いますが、⾃分の武器は何だと思いますか?
たくさんあると思っています。それこそ若さゆえのテーマ設定や、今回のようにコードをベースに据えた動画制作など、自分の視点からしか出せない発想は十分に武器になると感じています。
― 作品づくりにおいて、美学だけでなくコストや消費電⼒まで考慮しているのが⾮常に新鮮でした。これは学校での実験や授業の影響が⼤きいのでしょうか?
パソコンが好きなので、AI需要によるパーツ(GPUなど)の高騰や、膨大な電力消費の問題には注目していました。今回の作品でテキストベースの動画生成にこだわったのは、画像や動画の直接生成に比べて制限が少なく、環境負荷やコストが低い、という面もあります。
それにAIを活用している方はわかると思いますが、有料プランでも画像や動画の生成はすぐに利用の上限に達してしまうんです。でもテキストならデータ量が少ないのでほぼ無限につくれます。
AIにしかできないこともありますが、テキストの方がより良い表現になる場合もあると思っていて、それぞれの特性を理解して「良いとこ取り」をするのが理想とする制作の形です。今回の作品でもチャット画面はすべてテキストによるプログラムです。
チャット画面のように基本的な動きは同じで細かい内容だけを変えたい場合、AIによる反復生成では細部の崩れが起きやすくなります。テキストで「仕組み化」することで、正確な再現が可能になります。



SNSで脳を疲れさせない
適切な距離感をどう保つか?
― 作品内で蓮と咲はLINEのようなチャットツールで会話をしています。厳密にはチャットツールとSNSとは異なりますが、SNSとはどのような付き合い⽅をしているか、教えていただけますか? 16歳以下の利用を法律で禁止する国もあり、それは広まりそうです。
飲まれそうで怖いので発信はしていません。他人の投稿を読むだけの、いわゆるROM専を5年ほどやっています。しかしそれでもずるずるとSNSを見過ぎてしまったり、過度に他人と比べて落ち込むことは多いので、適切な距離感は大事かなと思います。
僕は奈良高専入学で家を離れて寮に入りました。親から自立した環境に移行したことで、最初の頃はゲームやSNSを自制できない時期もありました。ゲームが中心だったので傷は浅くてすみましたが、SNSに深くのめり込んでいたら、多感な時期だったこともあり今の自分とはまったく違う自分になっていたかもしれません。
― しかし触れないとわからないこともありますし、ゲームなどは「eスポーツ」のようにプロ化して大きな大会も開催するようになっています。
そこは難しいところですね。ただSNSに流れる最近のショート動画的なもの、アルゴリズムを採用してユーザーの興味ある動画を流し続けるもの全般に言えることは、あまり得るものがない、意味のない情報を増やして脳が疲れてしまっていますよね。中毒性が高く自制も難しいので、非常に危険だと感じています。僕はスマホの画面をモノクロにするなどで長時間観ないよう注意しています。
情報工学と新しい発想で作品を世に
AIの脅威と良い面の両方に目を向け
興味を深めて
― 将来の目標、夢は映像の監督ですか? それとも?
AIによって文章、画像、映像、音楽、3DCGなど、さまざまな分野に対しての挑戦は確実にしやすくなっていて、技術的な懸念をせずにやりたいことができる環境にあります。これからは映像にとどまらず、自分のバックグラウンドである情報工学と “新しい発想” を武器に、いろいろな分野の技術を横断的に組み合わせて自分なりの表現を磨き、最終的な形が映像なのか音楽なのか、それとも別の何かなのかという違いはあっても、世に出していきたいと思っています。
― 作品を観る方へのメッセージをお願いします。
AIは知識量やスピードでは人間を凌駕します。しかし人間の「人が歩んできた道や経験から生まれる発想」には価値があります。どんな道に進んでもチャンスはあると思うので、自分のやってきたことに自信を持って進んでほしいです。
― 作品を観た人にはどう感じてほしいですか?
AIの脅威と良い面の両方に目を向け、興味を深めてほしいです。ちなみに、作品の主人公である蓮は、あの後、順当に闇落ちしていくんじゃないかなと思っています(笑)。でも、どこかで目が覚めれば、人間の持つ力にも期待しています。
アジア最大級の国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2026』は、2026年5月25日(月)〜6月30日(火)に開催! 福田悠人監督の作品『箱庭のAI』は、オンラインでも観られます!
福田悠人監督の作品『箱庭のAI』が観られるU-25プログラムは、5月30日(土)14:30〜16:10に「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」にて、および6月7日(日)12:00〜13:40に「LIFORK HARAJUKU」にて上映します。いずれも無料ですが、チケット予約をおすすめします。
また映画祭オンライングランドシアターでは、5月25日(月)~6月10日(水)にオンライン配信が行われます。
※オンライングランドシアターは映画祭期間中、他プログラム含めショートフィルムが見放題となるパスポートの購入が必要となります



『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2026』概要

ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2026(SSFF & ASIA 2026)
カメラ、照明、⾳響、そしてAI。それらを緻密に組み合わせ、観客の⼼に届く体験を組み⽴てる。2026年の映画祭はそんな「設計学」としての映画に光を当て、「シネマエンジニアリング」をテーマに開催。動画が溢れ、アルゴリズムに消費される現代だからこそ、「映画体験」の真の価値とは何かを⼀緒に考えていく映画祭です。AIが表現の壁を取り払い、「縦型」が新たな視覚⾔語として確⽴された今、世界中からクリエイターが集い、次世代の映像の在り⽅を探究します。
◎開催期間
・5⽉25⽇(⽉)オープニングセレモニー
・5⽉26⽇(⽕)〜6⽉9⽇(⽕)東京会場
・6⽉10⽇(⽔)アワードセレモニー
※オンラインは5⽉25⽇(⽉)〜6⽉30⽇(⽕)(期間により配信プログラムが異なります)
◎上映会場
・MoN Takanawa: The Museum of Narratives(Box1000、Tatami、パークテラス)
・⾚坂インターシティコンファレンス
・ユーロライブ
・WITH HARAJUKU ほか
※会場により、期間、プログラムが異なります
◎チケット:上映会場、オンライン会場ともに有料、⼀部イベントは無料
◎オフィシャルサイト:https://www.shortshorts.org/2026
◎問い合わせ先:info@shortshorts.org
◎映画祭代表:別所哲也
◎主催:ショートショート実⾏委員会/ショートショート アジア実⾏委員会
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